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遺伝子組換え小麦(MON71800)の暫定検査法

25消安第1707号
平成25年7月3日

農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課長

遺伝子組換え小麦(MON71800)の暫定検査法

 本年5月、米国政府から同国のオレゴン州の一農家で未承認遺伝子組換え小麦MON71800の自生が確認された旨の情報が提供され、現時点では、流通品へのMON71800の混入は確認されていませんが、農林水産省は引き続き米国政府に対し、詳細な情報の提供を依頼しているところです。
 今般、国立医薬品食品衛生研究所においてMON71800の検査法の妥当性が確認されたことを受け、これと同様に、飼料に係る暫定検査法を別添のとおり定めましたので御了知願います。

[別添]

遺伝子組換え小麦(MON71800)の暫定検査法

1. 検査対象
 本検査法では、小麦穀粒を検査対象とする。
 4のリアルタイムPCR法によりMON71800の混入が確認された場合には、5.2の1%混入判定試験を実施する。
2. 小麦穀粒の検体採取方法
 小麦穀粒の検体採取については、「飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令の施行について」(平成15年4月1日付け14生畜第8598号農林水産省生産局長・水産庁長官通知)別添3 組換えDNA技術応用飼料の検査方法 1.検体採取方法に従う。検体採取した穀粒の全量を3.1. 試料の洗浄・粉砕に供する。
3. 小麦穀粒からのDNA抽出精製
3.1. 試料の洗浄・粉砕
 小麦穀粒に試料(重量)あたり3倍容の1%SDS水溶液を添加して攪拌する(5倍容以上の容器を使用)。その後、蒸留水又はイオン交換水で泡が出なくなるまですすぎ、紙タオルの上に洗浄穀粒を広げ、40℃の乾燥機にて40分間乾燥させる。乾燥後、粉砕器等を用いて均質に粉砕し、試験用試料及び保管用試料を調製する。
3.2. シリカゲル膜タイプキット法(DNeasy Plant Maxi Kit, QIAGEN)*1
 1検体から2並行でDNAを抽出精製する。
 試料1 gを50 mL容チューブに計量し、100 mg/mL RNase A*2 10 μL及びあらかじめ65ºCに温めておいたBuffer AP1*3 5 mLを添加し、試料塊がないようにボルテックスミキサー等で激しく撹拌し、65ºCで1 時間保温する。その間、遠心管を2~3回反転させて転倒混和する。チューブに、Buffer P3*4(旧名称:Buffer AP2)1.8 mLを添加後、ボルテックスミキサー等で撹拌後、氷水中に15分間静置する。スイング式遠心分離器を使用し、3,000 × gで室温で15分間遠心分離する。上清を4.5mL採取し、QIAshredder Maxi spin columnに負荷し、スイング式遠心分離器にかける(3,000× g、室温、5分間)。上清を4 mL採取し、新しい50 mL容チューブに移す。Buffer AW1*5(旧名称:Buffer AP3/E)6 mLを添加し、ボルテックスミキサー等で激しく攪拌する。溶液全量をDNeasy Maxi spin columnに負荷し、スイング式遠心分離器にかける(3,000 × g、室温、5分間)。素通り液を捨て、カラムにBuffer AW2*6(旧名称:Buffer AW)12 mLを加え、スイング式遠心分離器にかける(3,000 × g、室温、15分間)。カラムを新しい50 mL容チューブに移し、カラムにあらかじめ65ºCに温めておいた滅菌済みの超純水1 mLを加える。5分間室温で静置後、スイング式遠心分離器にかける(3,000 × g、室温、10分間)。溶出液を2 mL容サンプルチューブに移し、溶出液と等量のイソプロパノールを添加する。上下にゆっくり10回転倒混和後、5分間室温で静置する。遠心分離器を使用し、12,000 × gで、4ºC、15分間遠心分離後、上清を廃棄する。70%エタノール500 μLを添加し、沈殿物がチューブの底からはがれるまでチューブの底を指先ではじく。遠心分離器を使用し、12,000 × gで、4ºC、3分間遠心分離後、上清を完全に廃棄し*7、沈殿物を乾燥させる。滅菌済みの超純水100 μLを加え沈殿物を溶解させる。目視で不溶物がないことを確認し*8、これをDNA試料原液とする。
 1検体から2並行でDNAを抽出精製する。
*1 実験を通して、液体を分注するピペットやチップをサンプルごとに交換したりするなど、サンプル間のコンタミネーションが起こらないように十分注意する。
*2 キット付属のもの、QIAGENより別途購入したもの(Cat. no. 19101)、又は同等の効力を持つものを用いる。
*3 キット付属のもの、あるいはQIAGENより別途購入したもの(Cat. no. 1014630)を用いる。
*4 キット付属のもの、あるいはQIAGENより別途購入したもの(Cat. no. 19053)を用いる。
*5 キット付属のもの、あるいはQIAGENより別途購入したもの(Cat. no. 19081)を用いる。
*6 キット付属のもの、あるいはQIAGENより別途購入したもの(Cat. no. 19072)を用いる。
*7 沈殿物が見えない場合でも、遠沈管内の底部付近にはできるだけ触れないように、上清を除去する。指先でチューブをはじき、遠心分離して器壁から液滴を回収するという操作を繰り返す。
*8 不溶物が認められる場合は、一晩(12~24時間)冷蔵庫に静置する。24時間かけても不溶物が認められる場合は、12,000 × gで、4ºC、3分間遠心分離して得られた上清を新しいチューブに移し、これをDNA試料原液とする。なお、沈殿物も-20ºC以下で保存する。
3.3. DNAの純度確認・調製・保存
 DNA試料原液の適当量を取り、滅菌済みの超純水を用いて適宜希釈し*1、200~320 nmの範囲で紫外部吸収スペクトルを測定し、260 nm及び280 nmの吸光度(A260及びA280*2を記録する。次いでA260の値1.0を50 ng/μL DNAと換算し、DNA濃度を算出する。またA260/ A280を計算し、この比が1.7~2.0になれば、DNAが十分に精製されていることを示す*3。得られたDNA濃度から、DNA試料原液を10 ng/μLに滅菌済みの超純水で希釈して調製し、DNA試料液とする。DNA試料液は40 μLごとに0.5 mL容又は1.5 mL容チューブに分注後、-20ºC以下で冷凍保存する。分注したDNA試料液は、融解後直ちに使用し、残った溶液は再度保存せず廃棄する。なお、DNA試料原液の濃度が10 ng/μLに達しないときは、そのままDNA試料液として用いる。
*1 希釈倍率は、吸光度測定装置により適切な測定に要する液量及び濃度域が異なるため、適宜とする。
*2 A260がDNA由来の吸光度、A280がタンパク質等不純物由来の吸光度と考える。
*3 A260/A280の比が1.7~2.0の範囲外であっても精製等の更なる操作は要さない。
4. 定性リアルタイムPCR法(ABI PRISMTM 7900*
 3で得られた各DNA試料液を用いて、2ウェル並行で定性リアルタイムPCRを実施する。
 遺伝子組換え小麦(MON71800)の検出は、MON71800検知試験用のプライマー、プローブを用いたリアルタイムPCR、および小麦陽性対照試験用のプライマー、プローブを用いたリアルタイムPCRの2試験を行い判定する。MON71800検知試験用として、小麦ゲノム配列とcp4epsps遺伝子発現用ベクターの境界領域を検知するプライマー、プローブを用いる。また、小麦陽性対照試験用として、proline-rich protein(PRP)遺伝子配列を検知するプライマー、プローブを用いる。各プライマー、プローブは滅菌済みの超純水に溶解する。プライマー、プローブの塩基配列は以下のとおりである。
* ABI PRISMTM 7900と同等の性能を有する他の機種を用いてもよい。
・MON71800検知試験用のプライマー対及びプローブ
 SQ0718: 5’-TTC TTC TCT CTC TTT GAA TCT CAA TAC AA-3’
 SQ0719: 5’-CCC CCA TTT GGA CGT GAA-3’
 PB0101: 5’-FAM-TCC CCC TCT CTA ATTC-MGB-3’
・小麦陽性対照試験用のプライマー対及びプローブ
 PRP8F: 5’-GCA CCC ATG ATG AGT ACT ACT ATT CTG TA-3’
 PRPds6R: 5’-TGC AAA CGA ATA AAA GCA TGTG-3’
 PRP-Taq5: 5’-FAM-CTG TGC ACA TGA CTC AGT TGT TCT TTC GTG-TAMRA-3’
4.1. PCR反応液の調製
 PCR反応液は25 μL/wellとして調製する。その組成は以下のとおりである。FastStart Universal Probe Master (Rox)(Roche Diagnostics)*1 12.5 μL、各対象プライマー溶液(各50 μmol/L)各0.25 μL、対象プローブ溶液(10 μmol/L)0.5 μLを混合し、滅菌済みの超純水で全量20 μLに調製後、DNA試料液5 μL(10 ng/μL)を添加する*2。PCRのブランク反応液として、必ずDNA試料液を加えないものについても同時に調製する*3。分注操作終了後、真上からシールし*4、完全にウェルを密閉する。このとき、しわが寄らないよう注意し、専用のシーリング用アプリケーターを用いて行う。最後にウェルの底を観察し、底に気泡がある場合は、プレートの縁を軽く叩いて気泡を抜いておく。プレートの確認後、MicroAmp Optical Cover Compression Pad(Life Technologies)*5を茶色の面が上になるよう、プレートの上面にセットする。DNA試料液あたりMON71800検知試験及び小麦陽性対照試験をそれぞれ2ウェル並行して行うものとする。
*1 FastStart Universal Probe Master (Rox)(Roche Diagnostics)の代わりにTaqMan® Universal PCR Master Mix(Life Technologies)またはEagle Taq Master Mix (Rox)(Roche Diagnostics)を用いることができる。また、これらを含む溶液は粘性が高いため、混合操作を行う際には、混合が確実に行われるように注意する。不十分な場合には、PCRがうまくいかない場合がある。使う直前には必ずボルテックスミキサーを用いて3秒程度混合した後、軽く遠心し、溶液を試料管の底に集めておいてから使用する。また、ウェルに分注する際は、以後撹拌、遠心が困難なことを考慮し、ウェルの底に確実に入れる。
*2 冷凍庫から出した試薬類は、必要なものにつき室温で融解後、氷上で保存する。氷上で保存した試薬につき、同一のチップを用い連続分注すると、ピペット内の空気が冷却されるため、2回目以降、通常のピペット操作では正確に分注されないので注意する。ピペットの説明書に書かれた、低温試料を扱う場合の操作法(通常、ふきとめと呼ばれる操作)を理解して使用する。
*3 DNA試料液の添加の際、Non-Template Control(NTC)にはDNA試料液の代わりに滅菌済みの超純水を1ウェルに5 μL添加する。
*4 96ウェルプレートとしてMicroAmp Optical 96-Well Reaction Plate(Life Technologies)、シールとしてABI PRISM Optical Adhesive Cover(Life Technologies)を使用する。シーリングの詳細については製品付属のマニュアルを参考する。
*5 ABI PRISMTM 7900の場合に使用し、ABI PRISMTM 7500では使用しない。
4.2. プレート情報の設定
 反応に際しては、プレート情報の設定を行わなければならない。設定を行う項目は、検体の配置と種類およびプローブ特性である。具体的には新規シート上で、調製したプレートの配置に対応するように気を付けながら、検体の種類(「NTC」:Non-Template Control、「UNKN」:DNA試料液)の設定を行う。プローブ特性に関しては、MON71800検知試験ではReporterを「FAM」、Quencherを「Non Fluorescent」、小麦陽性対照試験ではReporterを「FAM」、Quencherを「TAMRA」となるように設定する。また、Passive Referenceは「ROX」に設定する。なお、ランモードの設定は9600 emulationモードを選択する。Sample Volumeは25 μLに設定する。
4.3. PCR増幅
 装置にプレートをセットし、反応とデータの取り込みを開始する。反応条件は以下のとおりである。50ºC、2分間の条件で保持した後、95ºCで10分間加温し、ホットスタート法で反応を開始する。その後、95ºCで15秒間、60ºCで1分間を1サイクルとして、45サイクルの増幅反応を行う。Remaining time が0分となっていることを確認し、反応を終了させた後、測定結果の解析を行う。
5. 結果の解析と判定
5.1. 定性リアルタイムPCR法
 MON71800検知試験および小麦陽性対照試験のいずれについても、結果の判定はAmplification plot上で指数関数的な増幅曲線とCt値の確認、及びmulticomponent上での対象蛍光色素由来の蛍光強度(FAM)の指数関数的な明確な増加の確認をもって行う。まず、MON71800検知試験において目視でAmplification plot上に指数関数的な増幅曲線が確認された場合には、MON71800陽性を疑う。次いで、ベースラインを3サイクルから15サイクルで設定し、ΔRnのノイズ幅の最大値の上側で、安定した指数関数的な増幅曲線上で交わるThreshold line(Th. line)として0.2に設定する。ただし、Th. lineがノイズや指数関数的でない増幅曲線と交わる場合は、それらと交わらないようTh. lineを適宜設定する。そのTh. lineからCt値が得られるか否かを解析する。
 まず、2併行抽出したそれぞれのDNA試料液(各2ウェル)について、以下の結果の判定スキームに従って判定する。
 各DNA試料液において、
(1) 小麦陽性対照試験にて2ウェル並行すべてで43未満のCt値が得られ、かつMON71800検知試験にて2ウェル並行すべてで43未満のCt値が得られた場合、当該試料は陽性と判定する。
(2) 小麦陽性対照試験にて2ウェル並行すべてで43未満のCt値が得られ、かつMON71800検知試験にて2ウェル並行すべてで43未満のCt値が得られない場合、当該試料は陰性と判定する。
(3) 小麦陽性対照試験にて2ウェル並行すべてで43未満のCt値が得られ、かつMON71800検知試験にて2ウェル並行すべてで一致した結果が得られない場合は、再度、検体からの「1. DNA抽出精製」以降の操作を行い、判定する。
 2併行抽出した両方のDNA試料液(合計4ウェル)において陽性と判定された検体を陽性と判断し、少なくとも一方のDNA試料液において陰性と判定された検体を陰性と判断する。(3)の場合、再抽出精製したDNA試料液においても陽性の判定が得られない場合には、MON71800陰性と判定する。
 なお、上記判定によりMON71800陽性が判定された結果についてmulticomponentを解析し、目視でFAMまたはVICの蛍光強度の指数関数的な増加が観察でき、ROXの蛍光強度の明確な下降やFAMまたはVICの蛍光強度の緩やかな上昇がないことを確認する。また、小麦陽性対照試験にて少なくとも1ウェルで43未満のCt値が得られないDNA試料液については、再度、検体からの「1. DNA抽出精製」以降の操作を行い、それでも小麦陽性対照試験にて少なくとも1ウェルで43未満のCt値が得られない場合には、本試料からの検知は不能とする。
5.2 1%混入判定試験
 5.1によりMON71800陽性と判定された試料(以下「陽性試料」という。)については、1%混入判定試験を行い、MON71800の混入率が1%を上回るか確認する。
試験においては、陽性試料と1%陽性対照液*1を用いて同時にリアルタイムPCRを実施する。操作方法は、「4. 定性リアルタイムPCR法」による。
判定に当たっては、まず陽性試料及び1%陽性対照液について、MON71800検知試験のCt値と小麦陽性対照試験のCt値との差(ΔCt値)をそれぞれ求める。さらに、陽性試料のΔCt値と1%陽性対照液のΔCt値との差(ΔΔCt値)を求め、以下に従って判定を行う。
(1) ΔΔCt値が正の値であるとき、PCR増幅量が閾値に達するまでに、陽性試料は1%陽性対照液よりもサイクル数を要していることから、陽性試料中のMON71800の混入率は1%を上回っていない。
(2) ΔΔCt値が負の値であるとき、PCR増幅量が閾値に達するまでに、陽性試料は1%陽性対照液よりもサイクル数を要していないことから、陽性試料中のMON71800の混入率は1%を上回っている。
*1 「1%陽性対照液」とは①、②又はこれらと同等のものをいう。
① MON71800の穀粒1粒に対し14粒の遺伝子組換えでない小麦穀粒を混合・粉砕した試料から抽出されたDNA試料(モンサント社提供)を、DNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN)又はそれと同等のものを用いて精製した後、滅菌済みの超純水で10ng/μLに調製し、DNA試料液(「3. 小麦穀粒からのDNA抽出精製」に従い、遺伝子組換えでない小麦穀粒から10ng/μLに調製したもの)を用いてMON71800濃度を1%に調整したDNA試料液
② MON71800の穀粒の粉砕物を、遺伝子組換えでない小麦穀粒の粉砕物を用いて1%濃度となるよう重量ベースで混合し、「3. 小麦穀粒からのDNA抽出精製」に従い、10ng/μLに調製したDNA試料液

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